夕方、冷蔵庫を開けて、閉じて、また開ける。「今日は何を食べようか」と考え始めたのに、10分たっても決まらない。結局いつものものを作る——という夕方が続くとき、悪いのは料理の腕でも冷蔵庫の中身でもなく、最初に立てた問いの形であることが多いです。
「何を食べるか」は、候補が数百ある問いです。しかも一皿目をそこから引くと、残りの副菜も汁物も主食も、その一皿に引っ張られて決め直しになります。順番が決まっていないと、決めるたびに前へ戻れてしまう。迷いはそこで生まれます。
この記事は、献立を自動で組む仕組み(献立メーカー_EX)の内部で実際に採られている決め方を、家庭の台所の言葉に置き直したものです。要点はひとつで、「何を」より先に「何品の型か」を決め、そのあとは決める順番を一本に固定してしまうということです。
先に決めるのは「一汁三菜にするか、一汁一菜にするか」という型です。型がやっていることは、実装の上では驚くほど単純で、埋めるべき空欄の並びを吐き出すだけです。一汁三菜なら主菜・副菜・副菜・汁物・主食、一汁二菜なら主菜・副菜・汁物・主食、一汁一菜なら主菜・汁物・主食。品数はこの並びの長さそのものです。
大事なのは中身ではなく順序です。並びの先頭は必ず主菜。主食の枠を持つ型では、主食が必ず末尾に来ます。コードのコメントにも「主菜を先に決めるのは、その日の残りを主菜に対して釣り合わせるため」と書かれています。空欄は先頭から順に埋められ、決まった料理はその日の一覧に足されてから次の空欄へ進みます。つまり後の一皿は必ず、先に決まった皿を見て決まる。逆流はしません。
主食が最後なのにも理由があります。パンにするかどうかは、主菜が洋食かどうかで決まります。だから主菜が判明するまで振れない。主食を最後に置くのは、順番の都合ではなく依存関係の結果です。
紛らわしいのは、決める順番と読む順番が別だという点です。できあがった献立の表示は主食→汁物→主菜→副菜の順に並びます。献立表に書き写すときの順番と、頭の中で決めていく順番は、一致していなくて構いません。ここを混同すると「主食から書くのだから主食から決めるのだろう」と考えてしまい、また迷いが戻ってきます。
役割ごとに、選べる幅はまったく違います。実際に収録されている品数は主菜597・副菜486・汁物214・主食203。数だけ見れば主食も200品ありますが、実質はまるで違います。
主食203品のうち90品が「単品完結」——親子丼、牛丼、カレーライス、チャーハン、焼きそばのたぐいです。これらはほかの皿を持つ型では問答無用で外されます。理由は明快で、丼や麺は一食まるごとだからです。横に副菜と汁物を並べる前提の献立に、そもそも座る場所がない。そして主食の空欄を持つ型はどれも二皿以上、主食の空欄が無い型ではそもそも主食が選ばれません。つまり単品完結の主食は、どの型でも一度も出てきません。
残る113品の内訳は、味つきごはん88・洋風の主食20(パンやパスタ)・白ごはん系5。白ごはん系はたった5品(白ごはん/麦ごはん/雑穀ごはん/玄米ごはん/玄米と押し麦のごはん)しかありません。そのため、ここだけ「同じものを繰り返してよい」という例外になっています。例外を入れた経緯もそのまま残っていて、白ごはん系を使い切ると「まだ使っていない」主食がパンだけになり、焼き魚の横にトーストが出たそうです。
台所側の教訓としては、主食を悩む対象から外してしまうのが早い、ということです。主食は選択肢がいちばん狭く、しかも白ごはん系にかぎっては繰り返してよい枠です。白ごはんを既定にして、変えるのは「主菜が洋食のとき」「炊き込みにしたい日」だけにする。ここで頭を使わないぶんを主菜に回せます。
「旬のものを食べたい」を素直に実装すると失敗します。旬でないものを候補から外す方式にすると、2月に候補が空になるからです。同じ理由で、8月は同じ茄子ばかりが並びます。
そこで採られているのは、外さずに点を付けるやり方です。まず「どのくらい旬に寄せるか」を割合で指定します。気にしない0/ときどき0.3/半分くらい0.5/多め0.75/できるだけ1.0の5段階で、既定は「半分くらい」。画面には「半分くらいが旬の料理になります」と出ます。
抽選は空欄ごとに1回だけ行います。候補ごとに振らないのは、そうすると料理1品ごとに別々の判定が出てしまい、指定した割合が何の意味も持たなくなるからです。「この空欄は旬に寄せる」と決まった空欄では、その季節に合う料理に+35、季節を問わない料理に+8、隣の季節の料理に-5、真逆の季節に-30。加えて旬の食材1つにつき+5が乗ります。
隣の季節を軽い減点にとどめているのは、初夏に出る春の料理を、冬の料理と同じだけ罰したくないからです。季節の区切りは3月始まりで、春が3〜5月、夏が6〜8月、秋が9〜11月、冬が12〜2月。旬は値段にも効いていて、旬の食材は0.75倍、隣の季節は等倍、それ以外は1.35倍で見積もられます。旬に寄せることは、安く作ることとほぼ同じ方向を向いているわけです。
買い物の場面に置き直すと、「今日は旬のものだけ」と決めるのではなく「5品のうち2品は旬から」と決める。売り場の状況に負けない決め方はこちらです。
「昨日と同じにならないように」を料理名で見ると、鶏の照り焼きの翌日に鶏の唐揚げが通ってしまいます。見る単位は料理名ではなくタンパク源——牛肉・豚肉・鶏肉・魚・魚介・卵・大豆製品・野菜・その他の9種です。
減点はこうです。昨日と同じタンパク源なら主菜で-45、それ以外の皿で-15。一昨日なら主菜-18、それ以外-5。同じ日の中では、同一タンパク源が-22、ジャンルの被りが-6(主食は対象外)、25分を超える料理が重なると-10。最後のひとつは味ではなく手間の分散のための減点です。
いちばん重いのは、同じ日に「主役級の食材」が重なったときの-70(1回につき、最大3回まで)です。この数字の根拠も残されていて、旬の合致+35と旬の食材ボーナスを足すとおよそ50になるため、それを上回る重さでないと同じ夏野菜の皿が2つ並ぶのを止められないからだそうです。主役級かどうかは、調味料でなく80g以上使うかで判定されます。
家でやるなら、冷蔵庫のメモに書くのは料理名ではなく「昨日=鶏/一昨日=魚」で十分です。それだけで三日続けて鶏、という失敗はほぼ消えます。なお、この連投回避が効くのは一度に組んだ何日分かの中でだけです。過去に作った献立をまたいで避ける仕組みは、確認できませんでした。
献立が決まったあと、レシピの想定人数と食卓の人数が合わないことがあります。倍率は「食べる人数 ÷ レシピの想定人数」で、人数は1〜8人。倍率が1のときは何も書き換えません。
書き換えの判断基準はひとつだけで、その行に数字があるかどうかです。「1と1/2」「1/2」「2」「1.5」のいずれかの形が拾えれば動かし、ひとつも見つからなければ行をそのまま返します。だから「適量」「少々」は動きません。除外リストで守っているのではなく、数字が無いという事実がそのまま理由になっているのが要点です。ひとつまみは2倍にならない。
裏返せば、数字のある調味料は動きます。「大さじ1」を3倍にすれば「大さじ3」になります。行の中の数字は全部動くので、「1.5合(225g)」を2倍にすると「3合(450g)」になります。
そして丸めは、台所で使える分数に寄せます。整数にごく近ければ整数で書き、そうでなければ1/4・1/3・1/2・2/3・3/4のどれかに寄せ、整数部があれば「1と1/2」の形にし、どれにも当たらなければ小数第1位まで。「0.6667個」は誰も実行できない、という理由が明記されています。1個の2/3は「2/3個」、1/2個の2倍は「1個」、1と1/2本の2倍は「3本」。
手で倍にするときも同じ線引きで足ります。量って入れるものは倍にし、味を見て決めるものは倍にしない。そして端数は分数に寄せて、計量スプーンで再現できる形にしておく。
最後に、型を選ぶための表です。左から順に見て、今日の体力に合う行を1行選ぶ。決めるのはそこまでで、あとは主菜から順に埋めていきます。
| 型 | 品数 | 内訳 | 献立表の読み順 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 一汁三菜 | 5品 | 主菜1・副菜2・汁物1・主食1 | 「主食・汁物・主菜・副菜2品」 | アプリの既定値。埋める順は 主菜→副菜→副菜→汁物→主食 |
| 一汁二菜 | 4品 | 主菜1・副菜1・汁物1・主食1 | 「主食・汁物・主菜・副菜1品」 | 埋める順は 主菜→副菜→汁物→主食 |
| 一汁一菜 | 3品 | 主菜1・汁物1・主食1 | 「主食・汁物・主菜」 | 副菜の枠が無い。埋める順は 主菜→汁物→主食 |
| メイン+副菜 | 2品 | 主菜1・副菜1 | 「主菜・副菜1品」 | 主食の枠が無いので、白ごはんやパンの比率設定はこの型では出番が無い |
| メインのみ | 1品 | 主菜1 | 「主菜1品だけ」 | 唯一の一皿型。主食の枠が無いので、丼や麺(単品完結)はこの型でも使われない——単品完結の主食はどの型でも選ばれない |
| (参考)役割ごとの収録数 | 主菜597・副菜486・汁物214・主食203 | 主食は「単品完結」90品を複数皿の型で常時除外→実質113品 | 内訳は味つきごはん88・洋風の主食20・白ごはん系5 | 白ごはん系5品=白ごはん/麦ごはん/雑穀ごはん/玄米ごはん/玄米と押し麦のごはん。ここだけ繰り返し可 |
迷う量を減らす方法は、選択肢を増やすことでも減らすことでもなく、決める順番を固定して、戻れなくすることです。型を選ぶ、主菜を決める、そのあとは主菜に釣り合わせる。主食は最後に、しかも既定でいい。この一本道を毎日同じように通れば、10分かかっていた場面は数十秒で終わります。