ぬか床は毎日かき混ぜる。味噌は仕込んだら何ヶ月も触らない。甘酒は一晩で仕上がる。同じ「発酵食品」とひとくくりにされるのに、手をかける頻度はまるで違います。しかも同じぬか床でも、真夏と冬、常温と冷蔵庫では必要な回数が変わります。
この記事は、10種類の発酵食品の世話の間隔を、常温・春秋を基準にして並べ直したものです。数字は「ぬか床日記」の実装が使っている基準値と倍率をそのまま引いています。最後に置き場所と季節をかけ合わせた早見表があります。
まず条件をそろえます。下の表は常温・春秋、つまり倍率が1.0になる条件での標準間隔です。最短の甘酒(8時間)と最長の味噌(45日)では135倍の開きがあります。
| 種類 | 常温・春秋の間隔 | 世話の内容 | 熟成の目安 |
|---|---|---|---|
| 甘酒 | 8時間 | 混ぜる | 1日 |
| ぬか床 | 24時間 | かき混ぜる | —(使い続けるもの) |
| 塩麹 | 24時間 | 混ぜる | 8日 |
| 醤油麹 | 24時間 | 混ぜる | 10日 |
| キムチ | 24時間 | 様子を見る | 3日 |
| ザワークラウト | 24時間 | ガス抜き | 5日 |
| コンブチャ | 2日 | 様子を見る | 10日 |
| 梅干し | 2日 | 様子を見る | 40日 |
| ヨーグルト | 3日 | 様子を見る | —(使い続けるもの) |
| 味噌 | 45日 | 天地返し | 240日 |
熟成の目安が「—」の二つは、いつか完成して終わるものではなく、世話を続けながら使っていくものです。表の中ではぬか床とヨーグルトがこの扱いで、表に入れていない「その他の発酵食品」も同じく熟成の目安を持ちません。
表の「世話の内容」の列を見ると、間隔の違いはだいたい説明がつきます。作業は大きく4つに分けられます。混ぜる(ぬか床・塩麹・醤油麹・甘酒。ぬか床だけは「かき混ぜる」と呼び分けています)、ガスを抜く(ザワークラウト)、様子を見る(キムチ・ヨーグルト・コンブチャ・梅干し)、天地返し(味噌)です。
かき混ぜの目的は、底からすくい上げて空気を入れることです。入れた空気は微生物に使われて減っていくので、次に入れるまでの猶予は短い。ガス抜きは逆に、発酵で溜まったものを逃がす作業なので、溜まる速さが間隔を決めます。どちらも「放っておくと状態が一方向に振り切れる」作業なので、1日が限界になります。
いっぽう味噌の天地返しは、上下の熟成のむらをならす作業です。むらが目に見えるほど育つには時間がかかるので、1〜2ヶ月に一度で足ります。「様子を見る」ものの多くが2〜3日おき(コンブチャと梅干しが2日、ヨーグルトが3日)なのも、見て分かるほどの変化が起きるまで待つ必要があるからです。ただし同じ「様子を見る」でもキムチだけは24時間で、ここは他の3種とそろっていません。
もうひとつの軸が水分です。ぬか床が狙う硬さは「握るとまとまり、指で押すと少し崩れる」味噌くらい。ここから外れると、両方向に失敗があります。水っぽくなると空気が入りにくくなって傷みますし、乾いてぼそぼそになると乳酸菌が働きにくくなります。
やっかいなのは、ぬか床の水分が毎日動くことです。きゅうりや大根を漬ければ野菜から水が出て緩くなり、放っておけば乾いていく。狭い正解の幅に対して中身が毎日変わるのだから、毎日手を入れて確かめるしかない、という理屈になります。
これに対して、塩麹は水250mlで、醤油麹は醤油200mlをひたひたに注いだ状態で寝かせます。ザワークラウトはキャベツの重量の2%の塩でもみ、出てきた水に浸かります。水分の量が最初に決まっていて、あとは大きく動かない。だから麹類が同じ24時間でも「混ぜる」だけで済みます。様子を見る系のうちコンブチャ・梅干し(2日)とヨーグルト(3日)は、さらに間隔が空きます(キムチだけは24時間のままです)。
三つ目が温度です。実装は10℃で2倍というQ10則をそのまま使い、20℃(春・秋の室温)を基準にしています。20℃で24時間なら、30℃では12時間相当。これが季節と置き場所の倍率の正体です。
甘酒の8時間だけは毛色が違い、米麹と粥を60℃に保つ8時間を指します。温度が高すぎると甘くならないので、温度で押し切る作業と考えたほうが実態に近いものです。
標準間隔には、置き場所の倍率がそのままかかります。参考として、漬け物が漬かるまでの時間にかかる倍率も並べました。
| 置き場所 | 世話の間隔 | ぬか床の場合 | 漬け時間 |
|---|---|---|---|
| 常温 | 1.0倍 | 24時間 | 1.0倍 |
| 冷暗所 | 1.6倍 | 38.4時間 | 1.4倍 |
| 冷蔵庫 | 3.5倍 | 84時間(3.5日) | 2.0倍 |
二つの列がずれているのが大事なところです。冷蔵庫に移すと世話の間隔は3.5倍に伸びますが、漬かるまでの時間は2倍にしかなりません。手はかからなくなるのに、漬かるのは遅い。冷蔵庫のぬか床が「楽だが物足りない」と言われるのは、この差のためです。
冷蔵庫にはもうひとつ性質があります。季節の補正を受けません。庫内は年間を通してほぼ一定なので、外が真夏だろうと真冬だろうと84時間のままです。
常温と冷暗所に置いたものには、さらに季節の倍率がかかります。月で区切られていて、7・8月が真夏、6・9月が初夏・初秋、4・5・10・11月が春・秋、残りが冬です。
| 季節(月) | 倍率 | ぬか床・常温 | 甘酒・常温 |
|---|---|---|---|
| 真夏(7・8月) | 0.55 | 13.2時間 | 4.4時間 |
| 初夏・初秋(6・9月) | 0.8 | 19.2時間 | 6.4時間 |
| 春・秋(4・5・10・11月) | 1.0 | 24時間 | 8時間 |
| 冬(12〜3月) | 1.4 | 33.6時間 | 11.2時間 |
真夏に「朝晩2回」と言われる根拠がこれです。13.2時間ですから、朝に混ぜれば夜にもう一度が目安になります。冬は33.6時間なので、丸一日以上あけても構いません。
この補正を受けるのは、ぬか床・塩麹・醤油麹・甘酒・キムチ・ザワークラウトの6種です。味噌・ヨーグルト・コンブチャ・梅干しは受けません。補正の有無を決めているのは置き場所ではなく種類ごとの設定で、冷暗所に置いても常温と同じように季節で動きます。置き場所が効くのは冷蔵庫のときだけで、そこでは種類によらず補正が外れます。
気温が分かる場合は、月ではなく気温から計算されます。屋外の最高・最低の平均から室温を見積もり(暑い側は屋外の変化の0.6、寒い側は0.35しか室内に伝わらないという計算)、そこにQ10則をあてます。最高35℃・最低27℃の日なら室温はおよそ26.6℃と見て0.63倍、ぬか床の間隔は15.2時間。最高8℃・最低1℃なら室温14.6℃で1.46倍、35.0時間です。極端な予報でおかしな値にならないよう、倍率はおよそ4℃から35℃の範囲だけ素直に計算し、外側は頭打ちにします。
ここまでの数字は「こうするのが理想」という間隔です。守れなかったときに失敗かというと、そうではありません。遅れとみなす猶予は、季節の倍率が1.0を下回るとき、つまり暑い時期には縮まないようになっています。
真夏のぬか床で言えば、すすめる間隔は13.2時間でも、猶予は24時間のまま。さらに表示が「遅れています」に変わるのは猶予の1.5倍を超えてから、つまり36時間経ってからです。1日1回混ぜていれば、どんな猛暑日でも遅れにはならないという線引きです。涼しい時期は逆に、発酵が遅いぶん猶予も伸びます。
目安として使うなら、間隔の75%が「そろそろ」、100%が「今日やる」、猶予の1.5倍を超えて「遅れ」と考えると、実装の判定と同じになります。ただし世話の記録がまだ一度も無いものは、期限前でも最初から「そろそろ」と出ます。
春・秋(倍率1.0)での間隔を、置き場所ごとに並べます。真夏は上の6種のみ0.55倍、冬は1.4倍してください(冷蔵庫の列は季節で変わりません)。
| 種類 | 常温 | 冷暗所 | 冷蔵庫 |
|---|---|---|---|
| 甘酒 | 8時間 | 12.8時間 | 28時間 |
| ぬか床 | 24時間 | 38.4時間 | 3.5日 |
| 塩麹 | 24時間 | 38.4時間 | 3.5日 |
| 醤油麹 | 24時間 | 38.4時間 | 3.5日 |
| キムチ | 24時間 | 38.4時間 | 3.5日 |
| ザワークラウト | 24時間 | 38.4時間 | 3.5日 |
| コンブチャ | 2日 | 3.2日 | 7日 |
| 梅干し | 2日 | 3.2日 | 7日 |
| ヨーグルト | 3日 | 4.8日 | 10.5日 |
| 味噌 | 45日 | 72日 | 157.5日 |
迷ったときは、順番に思い出すのが早い方法です。まず種類で標準の間隔が決まり、置き場所で1.0倍・1.6倍・3.5倍に伸び、季節補正を受ける6種なら冷蔵庫以外で0.55倍から1.4倍まで動く。かけ算3つで、その日の目安が出ます。