レシピには分量と手順は書いてありますが、値段は書いてありません。「今日は魚が高い」「この時期のトマトは高い」という感覚はあっても、では一食あたりいくら違うのか、と聞かれると答えにくいものです。
この記事は、献立を自動で組む仕組み(献立メーカー_EX)が材料費をはじく計算を、台所の言葉に置き直したものです。値段は全国のスーパーの平均的な相場をもとにした概算で、実際の店頭価格とは違います。それでも、どこを動かすと金額が動くのかという構造は、そのまま買い物の判断に使えます。
一つの材料の値段は、使う重さ ÷ 100 × 100gあたりの単価 × 季節の倍率で出ます。これを材料の数だけ足したものが、その料理の材料費です。人数を変えるときは、レシピが想定する人数との比を全体に掛けます。2人前のレシピを4人で作れば、材料費もちょうど2倍になります。
例外が二つあります。ひとつは「少々」のように重さの書かれていない材料で、これはひとつまみ分として一律4円を計上します。収録1500品のうち665行がこれにあたり、そのうち631行が「少々」。重さの書かれていない665行全体で見ると、こしょう377行と塩106行が大半を占めます。ゼロにしないのは、味の要になる行が勘定から丸ごと消えてしまうからです。なお「適量」と書かれた行は114行ありますが、こちらは揚げ油のようにグラム数が添えてあるので、4円ではなく実額で計算されます。もうひとつは単価の分からない食材で、100gあたり120円に置きます。収録している299品目の中では安めの部類にあたる値です(単価の中央値は150円)。
ここで押さえておきたいのは、倍率は最後に掛かるということです。同じ「25%引き」でも、金額の差は「単価 × 重さ」が大きい材料ほど大きくなります。旬を選ぶ効き目は、その料理の主役が何かでほとんど決まります。
季節は、春が3〜5月、夏が6〜8月、秋が9〜11月、冬が12〜2月です。暦の上の区切り(立春から春)ではなく、春は3月から始まるという料理の慣習に合わせてあります。食材ごとに「旬の季節」が登録されていて、いま買う季節との関係で倍率が決まります。
| 食材の旬と、いま買う季節の関係 | 倍率 | 大根(冬が旬・25円/100g)の場合 |
|---|---|---|
| 旬にあたる | 0.75 | 冬 → 18.8円/100g |
| 旬の隣の季節 | 1.00 | 秋・春 → 25.0円/100g |
| 旬の反対の季節 | 1.35 | 夏 → 33.8円/100g |
| 旬が設定されていない食材 | 1.00 | 玉ねぎ・鶏もも肉・卵などは通年で動かない |
「隣」は前後の季節、「反対」はその二つを除いた残りひとつです。反対どうしの組は春と秋、夏と冬の二組しかありません。したがって旬がひとつの食材の一年は、3か月が0.75、6か月が1.0、割高になるのは残りの3か月だけという形になります。旬を外したから高い、のではなく、真裏の季節に買ったときだけ高い、というのが正確なところです。
旬が二つある食材は、さらに割高になりません。キャベツ(春・冬)、にんじん・れんこん・ごぼう・さば(秋・冬)、なす(夏・秋)、レタス(春・夏)など11品目は、旬でない季節がどちらかの旬の隣にあたるため、1.35が一度も出ません。半年が0.75、半年が1.0です。
0.75と1.35の比は1.8です。ひとつの食材でいちばん安い季節といちばん高い季節を比べると、最大で8割の開きが出る、という上限がここで決まります。
なお、旬であることと買いやすさは別です。299品目のうち17品目(そら豆、菜の花、みょうが、ゆず、さんま、桜えび、ふきのとう、たらの芽、こごみ、ホタルイカ、うど、すだち、モロヘイヤ、グリーンピース、ビーツ、鴨肉、木の芽)は「入手しにくい」として扱われます。旬の割引がかかっても、そもそも近所の店に無いことがあります。
旬が登録されているのは、299品目のうち113品目です。分類ごとに見ると、偏りははっきりしています。野菜は94品目中76品目、魚介は42品目中33品目に旬があります。一方、肉は29品目のうち鴨肉の1品だけ。卵・乳製品・大豆製品・乾物と缶詰は、ひとつもありません。残る3品目は、穀類のそうめん・餅と、調味料の木の芽です。
ところが、材料費に占める割合は別の話です。収録1500品を四季ならしで足し合わせると、野菜が29.9%、肉が24.8%、魚介が22.2%を占めます。金額の半分近くは肉と魚が持っていくのに、季節で動くのはほぼ魚だけ、という構造です。だから料理ごとの振れ幅は、主役の食材で決まります。
| 主役の食材 | 収録数 | いちばん安い季節といちばん高い季節の比(中央値) |
|---|---|---|
| 魚 | 133品 | 1.59倍 |
| 魚介(えび・貝・いかなど) | 180品 | 1.39倍 |
| 野菜 | 535品 | 1.31倍 |
| 卵 | 79品 | 1.12倍 |
| 豚肉 | 172品 | 1.11倍 |
| 鶏肉 | 175品 | 1.11倍 |
| 大豆製品 | 130品 | 1.10倍 |
| 牛肉 | 72品 | 1.06倍 |
1500品全体では1.21倍が中央値で、季節でまったく動かない料理も120品(8.0%)あります。旬を意識する価値があるのは魚と野菜の料理で、肉が主役の日は、いつ作っても同じ、と割り切ってかまいません。
| 料理 | 主役(旬) | 春 | 夏 | 秋 | 冬 | 惣菜・外食の目安 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ぶり大根 | ぶり(冬)・大根(冬) | 441円 | 581円 | 441円 | 341円 | 700円 |
| 鮭のムニエル | 生鮭(秋) | 485円 | 390円 | 305円 | 372円 | 550円 |
| 鶏の唐揚げ | 鶏もも肉(旬なし) | 261円 | 261円 | 261円 | 261円 | 480円 |
数字はすべて1人あたりです。ぶり大根は冬と夏で240円違います。中身を開くと、2人分でぶり200gの差が420円、大根400gの差が60円。倍率はどちらも同じ0.75と1.35なのに、金額の差は7倍あります。「旬の野菜を選ぶ」より「旬の魚を選ぶ」ほうが、財布には大きく効くということです。
鮭のムニエルがいちばん高くなるのは春です。生鮭の旬は秋なので、鮭そのものに1.35がかかるのは反対にあたる春だけ。夏と冬は鮭が等倍です。それでも夏390円・冬372円と18円ずれるのは、この料理に入るレモン50gの旬が冬だからです。レモンだけで見ると、2人分の代金が夏81円・秋春60円・冬45円と動き、その差が一人あたり18円として出てきます。主役以外の食材にも旬はあり、それが小さな差を作ります。
唐揚げは四季で1円も動きません。鶏もも肉にも、しょうが・にんにく・醤油・片栗粉にも旬が無いためです。
原価率は、1人あたりの材料費を、同じ料理を惣菜や外食で買った場合の1人分の目安価格で割ったものです。小さいほど、作ったほうが得だという意味になります。
1500品の中央値は62.1%でした。50%未満が326品(21.7%)、50〜80%が1054品(70.3%)、80%以上が120品(8.0%)です。ここが読み違えやすいところで、60%前後は「安い」ではなく「ふつう」です。作れば外食の6割で済むのが平年並みで、そこから外れて初めて、得か損かの判断材料になります。
80%以上の120品は、その半分近い58品が副菜でした。サラダや和え物のように、店で買っても値段が上がりにくい料理は、作っても差が出にくいということです。逆に50%未満の326品でいちばん多いのは、野菜を主役にした副菜と汁物でした(合わせて113品)。主菜だけを取り出すと、豆腐・卵・野菜が主役のものは80品中35品が50%を切ります。肉や魚が主役の主菜はどれも2割に届かないので、外食との差がいちばん開くのは、豆腐・卵・野菜の主菜ということになります。
| 献立での位置 | 収録数 | 1人あたり材料費(中央値) | 原価率(中央値) | 季節による振れ幅 | 季節による金額差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 主菜 | 597品 | 343円 | 63% | 1.13倍 | 44円 |
| 副菜 | 486品 | 154円 | 64% | 1.32倍 | 42円 |
| 汁物 | 214品 | 156円 | 56% | 1.27倍 | 30円 |
| 主食 | 203品 | 263円 | 59% | 1.10倍 | 27円 |
割合で見ると、いちばん季節に振り回されるのは主菜(1.13倍)ではなく副菜(1.32倍)です。副菜は野菜が主役で、その野菜こそが季節で動くからです。ただし金額に直すと44円と42円で、ほぼ並びます。もとの単価が小さいぶん、割合の大きさは財布の上では相殺されます。
1人1日あたりの予算に上限を設けるなら、主菜に55%、主食に18%、副菜に15%、汁物に12%という配分がひとつの目安になります。主菜のみの日は、その全額が主菜の枠です。
100gあたりの見積もり単価です。太字は旬にあたる季節を指します。
| 食材 | 旬 | 春 | 夏 | 秋 | 冬 |
|---|---|---|---|---|---|
| 大根 | 冬 | 25.0円 | 33.8円 | 25.0円 | 18.8円 |
| 白菜 | 冬 | 25.0円 | 33.8円 | 25.0円 | 18.8円 |
| ほうれん草 | 冬 | 90.0円 | 121.5円 | 90.0円 | 67.5円 |
| キャベツ | 春・冬 | 22.5円 | 30.0円 | 30.0円 | 22.5円 |
| にんじん | 秋・冬 | 40.0円 | 40.0円 | 30.0円 | 30.0円 |
| トマト | 夏 | 70.0円 | 52.5円 | 70.0円 | 94.5円 |
| きゅうり | 夏 | 60.0円 | 45.0円 | 60.0円 | 81.0円 |
| なす | 夏・秋 | 60.0円 | 45.0円 | 45.0円 | 60.0円 |
| じゃがいも | 秋 | 54.0円 | 40.0円 | 30.0円 | 40.0円 |
| しめじ | 秋 | 81.0円 | 60.0円 | 45.0円 | 60.0円 |
| レモン | 冬 | 120.0円 | 162.0円 | 120.0円 | 90.0円 |
| 生鮭 | 秋 | 405.0円 | 300.0円 | 225.0円 | 300.0円 |
| さば | 秋・冬 | 200.0円 | 200.0円 | 150.0円 | 150.0円 |
| ぶり | 冬 | 350.0円 | 472.5円 | 350.0円 | 262.5円 |
| 玉ねぎ | なし | 35.0円 | 35.0円 | 35.0円 | 35.0円 |
| 鶏もも肉 | なし | 150.0円 | 150.0円 | 150.0円 | 150.0円 |
| 卵 | なし | 45.0円 | 45.0円 | 45.0円 | 45.0円 |
買い物の場で使うなら、順番は三つです。まず主役を見る——肉なら季節は考えなくていい。魚なら旬かどうかで1.5倍前後の差がつきます。次に真裏の季節だけ避ける——春の食材は秋、夏の食材は冬。隣の季節はもとの値段のままです。最後に、副菜の野菜は割合ではよく動きますが、金額としては一皿40円ほどの話だと知っておくこと。ここに時間をかけるより、主菜を一日ずらすほうが効きます。